東京高等裁判所 平成4年(く)128号 決定 1992年7月13日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件申立の趣意は、申立人らが連名で提出した抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、原決定は、少年法所定の少年である被告人の殺人、死体遺棄被告事件について、弁護人が平成四年六月一九日付でした勾留場所変更の申立に対し、「職権を発動しない。」旨の決定をしたが、原決定の理由とするところは根拠がなく、かつ浦和拘置所に少年を勾留することは、国際人権規約等の国際準則及び少年法四九条三項に違反するから、原決定は違法であり、これを取り消し、被告人を浦和少年鑑別所に移監されたい、というのである。
本件記録によれば、本件は、少年である被告人が殺人及び死体遺棄を犯したという事案であるが、右事件について被告人は逮捕、勾留の上浦和家庭裁判所に事件送致され、同家庭裁判所における審判の結果、浦和地方検察庁検察官に送致する旨の決定を受け、被告人の身柄は浦和拘置支所に収監されたこと、浦和地方検察庁検察官は、平成四年一月一七日浦和地方裁判所に対し本件につき公訴を提起したが、その後被告人の勾留場所に変化はなく、既に第四回公判期日を経過した現在においても、被告人は浦和拘置支所に勾留されていることを認めることができる。
ところで、弁護人らは、原裁判所に対し、被告人の勾留場所を浦和少年鑑別所に変更することを求めているが、右は、弁護人の側からする被告人の移監請求に外ならないところ、刑訴規則八〇条によれば、弁護人は、裁判所に対し独立して被告人の移監ないし移監の同意を求める権利を有せず、その他現行法規上、弁護人が裁判所に対し被告人の勾留場所の変更を請求することができる旨の規定は見当たらないから、弁護人らの本件勾留場所変更の申立は、原裁判所に対しその旨の職権の発動を求めているにすぎないものと解すべきである。したがって、これに対し原裁判所が職権を発動しないとした本件措置は、裁判所がその有する裁量権を行使しないことを宣明したに留まるもので、なんらの処分性を有するものではないから、刑訴法四二〇条二項所定の勾留に関する裁判としての実質を備えているものということはできない(なお、所論指摘の諸点にかんがみ記録を精査して検討しても、原裁判所の措置にその裁量権を著しく逸脱した違法、不当の廉は認められない。)。
以上によれば、弁護人らの申立は、刑訴法四二〇条二項の要件を欠き、同条一項により抗告をすることができない不適法なものというべきである。
よって、刑訴法四二六条一項前段により本件抗告を棄却することにして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 新谷一信 裁判官 荒木勝己 上田幹夫)